M&Aにおける譲渡対価の受取り方と手取り額について①

コラム最終更新日:2025年3月17日

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M&Aにおいて、譲渡対価をどのように受け取るかは、税負担に大きな影響を与えます。受取り方次第で最終的な手取り額が大きく変わるため、慎重な検討が必要です。

特に、譲渡対価の一部を役員退職金として受け取るケースは多く見られます。本コラムでは、役員退職金と株式譲渡の税務上の取扱いを解説し、それぞれのメリットや注意点を整理します。

役員退職金に関する税金について

M&Aにおいて、譲渡対価の一部を役員退職金として受け取ることは一般的なスキームの一つです。役員退職金は、法人税法と所得税法の両面で特別な取扱いがなされており、適切に活用することで税負担を抑えることが可能です。

①法人税法上の取扱い

法人が役員退職金を支払う場合、以下の要件を満たせば経費に算入することが可能です。

  • 退職の事実があること

  • 退職金の額が「過大」とならないこと(功績倍率方式などに基づいた適正な額であること)

  • 退職後に再度役員として勤務しないこと(または主要な役職に復帰しないこと)

仮に、役員退職金としての適正額を超える金額を支払った場合、税務調査等で一部否認される可能性があります。

➁所得税法上の取扱い

個人が役員退職金を受取る場合、次のような取扱いとなります。

  • 退職所得控除:継続勤務している期間に応じて控除額が設定されており、一定額までは非課税となります。

  • 退職所得の税負担軽減:退職所得の計算上、「控除後の金額 × 1/2」に対して課税されるため、通常の給与所得や譲渡所得と比べて税率が低くなる。

例えば、勤続30年以の役員の場合、退職所得控除の額は 1,500万円 となるため、退職金のうち1,500万円までは非課税となります。


株式譲渡に対する税金について

次にM&Aにおいて、譲渡対価を株式譲渡で受け取る場合、その所得は 譲渡所得(分離課税) として課税されます。

特に、その株式の保有期間が5年を超えていれば、長期譲渡所得として扱われ、譲渡による利益部分に20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%)の税率で分離課税されます。


譲渡対価の受取り方と手取り額

M&Aにおいては、譲渡対価の一部を役員退職金として受け取るケースが多く見られます。株式譲渡による税率は一定である一方、役員退職金は一定額まで非課税となるほか、退職所得として税率が低くなる場合があるため、譲渡対価の受け取り方によって手取り額が大きく変わります。

ただし、役員退職金として受け取るためには、法人税法上の要件を満たす必要があり、退職金の金額が過大と判断されると税務上の否認リスクが生じます。

また、M&A後に前社長が一定期間継続勤務する場合、法人側が退職金として支給したとしても、税務当局から「経営上の主要な地位から外れていない」と判断されれば、退職金として認められない可能性があります。そのため、適切な役員退職金の額を設定し、退職の実態を明確にすることが重要です。

M&Aの譲渡対価の受け取り方法については、まず株式譲渡と役員退職金の両方のケースについてシミュレーションを行い、税引後の手取り額を比較検討することが重要です。このシミュレーションをもとに、譲渡側と譲受側双方の希望を確認しながら、具体的な譲渡対価の内訳を決定します。


まとめ

M&Aにおける譲渡対価の受け取り方は、単に「いくらで譲渡するか」だけでなく、「どう受け取るか」によっても大きな違いが生じます。

役員退職金として受け取ることで手取り額を増やせる可能性がある一方で、税務上の要件や買い手企業との調整が必要になります。特に、M&A後に前社長が引き続き経営に関与する場合、役員退職金として認められないリスクがあるため、慎重な検討が求められます。

M&Aを検討している場合は、事前に税務・会計の専門家と相談し、最適な受け取り方を設計することが重要です。当社では、M&Aに関する税務シミュレーションや交渉支援を提供しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。


【コラム執筆者】

社員税理士 杉井秀伍

プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞

保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート

支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業  等


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